【人類学】サバンナの記憶を蘇らせ、現代社会を疑え

文化人類学

今回読んだ本はこの本。

『漫画 サピエンス全史 人類の誕生編』ユヴァル・ノア・ハラリ(2020)

漫画ではなく文庫本版もあるが、長く難しい本なので手に取るハードルが高い。一方でこれは漫画なのでスラスラと娯楽感覚で読めた。こういった有意義な本は、ポイントを押さえながら漫画形式にしてくれると非常に助かる。時短にもなる上に、記憶にも残りやすい。

今回も自分の読書メモとして、まとめていく。

この本について

著者はイスラエルの歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリ。
(同著の『21 Lessons 21世紀の人類のための21の思考』(2021)という本も、最初の数ページ読んで面白いことを確信したが、まだ手を付けられていない、、)

この本(漫画)について一言でまとめると、「人類の生物学的に自然な生き方は狩猟採集社会の生活であり、農業革命以降の人類の生活はデメリットだらけである」ことを指摘した本である。

人類の現在の生き方を否定する上記の指摘は非常に斬新ではあるが、納得させられる記述もあり、狩猟採集社会と現代社会を比較することで、現代社会を考え直すいいきっかけになる。

まさにタイトルで書いた通り、人類がサバンナで狩猟採取生活をしていたときのことを思い出し、それらが如何に人類に適していた生活であり、現代社会が如何に我々のDNAに適していないものであるかを考えようというような本である。

人類の生物的な進化

人類は生物的に大きな2つの進化をしている。

①脳を大きくすること

一つは、脳を大きくしているということ。人類は脳を大きくしたことにより、認知能力・言語能力を発達させたが、その分、脳にエネルギーが必要なため、筋肉量は減った。人類は、筋肉と引き換えに、脳を得たのだ。

②二足で歩くということ

二足歩行により、人類は両手を自由に使えるようになった。また二足歩行により、骨盤が狭くなるので、子どもは四足歩行のときよりも早く産まれるようになった。例えば、四足歩行の動物の子どもは産まれてすぐに歩くことができるが、それはそれほど成長するまで長くお腹の中にいることができるということでもある。人類の子どもは早く産まれる分、すぐに独り立ちできない。これはサバンナの弱肉強食の世界では圧倒的に不利なことではあるが、これにより人類は子どもに教育を行い、社会的能力を発達させることが可能になった。

認知革命

7万年前、サピエンスは急激に増加して世界中に広がった。そうやって世界中に広がることができたのは、7万年前に認知革命が起こり、言語能力の獲得とコミュニケーションを取ることができるようになったから。

言語能力とコミュニケーション能力の獲得により、人類は他者との協力が可能になった。また虚構(フィクション)の話が可能になり、神話が生まれ、それを元に団結することが可能になった。

現代社会の、宗教、国家、法律、お金、会社もいわば虚構の一例。大勢の人がそれを信じるから、協力が可能になり、現代社会が成り立っている。

狩猟採集社会と農業革命

1万2000年前に農業革命が始まったが、それ以前の何万年と人類は狩猟採集民として過ごしてきた。農耕生活は人類史の中ではわずかにすぎず、未だ人類の脳は狩猟採集生活に適応したままである。(まだ人類は農耕生活に適した身体になっていない)

社会の在り方としても、核家族生活や一夫一妻という概念は農業革命以後のことであり、人類の歴史としては短い。(核家族や一夫一妻はDNAに適したものでないかもしれない)

人類が未だ狩猟採集社会に適応したままであるという例として「現代人が糖分と脂肪が好きなのは、狩猟採集民のDNAを受け継いでいるからである」というのがある。現代人はまだDNA上ではサバンナに生きている。非常事態に備えて、糖分と脂肪を取れるときに摂取する癖がついているのだ。

また食べ物については、狩猟採集民の方が幸福な暮らしをしていた(原始豊潤社会)。食事も雑食でバラエティ豊かだった。1種類の食物に頼っていないので、飢えも少ない。移動が可能なので、災害にも柔軟に対応していた。狩猟採集に関わる労働時間は35-45時間/週程度であり、健康に関しては幼児期を乗り越えさえすれば、理想的な栄養状態の人が多かった。(もちろん、狩猟採集社会は子ども・老人・病人には厳しい社会であったという側面もあるが)

一方で、農耕民族は貧富の差が大きく、米・麦・穀物に偏った食事になりがちである。栄養不足の人も多く、天候によってはたちまち飢饉に晒された。

(下巻の内容にはなるが)農業革命により、人類は穀物の奴隷になったと著者は指摘する。
森林を焼き尽くし畑にし、定住し農耕することで人口は爆発的増加した。それにより貧富の差が発した。また農業を行うことでヘルニア、関節炎が発生した。また食事は穀物中心となり、栄養バランスは偏よった。同じ場所に定住するため、天候により飢餓となり、疫病はすぐに流行した。
農業を行うことで、所有(土地、家畜)の概念の発生したが、同時に所有物を奪い合う、暴力の発生も発生した。また敷いてはそれは階級社会や差別、奴隷の発生につながった、、。

また人間一人一人の能力についても、狩猟採集社会の方が優れていた。狩猟採集社会では個人個人に多くの知識が求められた。例えば地理、植物、動物、天候、技術に関する知識であり、それらは生きるために必須であった。

一方で、農業、工業の社会では分業が前提となっているため、知識の総略は増えているが、ひとりひとりの知識量は減っている。農業革命時代以降、どんどん脳は小さくなっているというデータもあるくらいだ。

大型動物の大量殺害

人類史を振り返ると、人類は大型動物の大量殺害を行ってきたことがわかる。

①(認知革命以降)民族移動による大型動物の大量絶滅。

②(農業革命以降)農地の拡大による動植物の絶滅。

③(産業革命の工業化以降)海洋動物が絶滅の危機に。

5万年前に人類は舟を作り、オーストラリア大陸に渡った。その大陸で「狩猟技術を身につけた人類vs人類がいない環境下で食物連鎖の頂点にいた24種類の大型動物」の衝突が起こった結果、23種類の大型動物が絶滅した。また同様に、ベーリング海峡を陸路で渡った人類は、わずか1000-2000年の間に南北アメリカ大陸全体に住みつき、その過程で多くの大型動物(マンモスやナマケモノやサーベルタイガー)を絶滅させた。オーストラリア大陸の大型動物やアメリカ大陸のマンモスは、人類に対する学びが全くない中で、人類と対面することになってしまった結果、絶滅してしまったのだ。

一方でアフリカの大型動物は、人類の狩猟技術の発達とともに、人類に対することを学習する時間があったため、絶滅を免れることができた。

おわりに

「人類のDNAには狩猟採集社会の方が適している」という指摘が斬新であるため、ハッとさせられることは多い。現代社会では当たり前になってしまっているが、生物的に人類を考えたときに確かにおかしいと感じさせられることはあった。そういった意味で、人間とは本来どうあるべきか、敷いては我々はどう生きるべきかということを考えさせられる。

この漫画の下巻『漫画 サピエンス全史 文明の正体編』でも、著者は農業革命以降の人類史が如何に人間の自然から逸脱した異常なものであるかを教えてくれる。また下巻では、現代社会におけるヒエラルキーや男女格差について、生物学的な観点から人類には差がないことから、それらは人類が生み出した創造上の神話にすぎないことを指摘し、根本的に作り直すことが可能であることを示唆している。

上下巻とも、人類史を振り返りながらサバンナの狩猟採集社会を懐古し現代社会批判するというリベラルな本であるが、その分気づかされることも多い良本である。

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